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つぼつぼ棚とつぼつぼ紋

by S.Goto

つぼつぼ棚を買った。

いつもの茶道具屋に抹茶を買いに行ったはずだったのだが、帰ってくる時はつぼつぼ棚と菓子器も一緒に手にしていた。どちらも通称「出物」(でもの)と言われる品々である。

茶道具というのはリサイクルの仕組みが整っていて、高齢のお茶の先生が引退されたり、亡くなられたりすると、それまでお使いだった茶道具は出入りの茶道具屋が引き取って、またお店で売るのだ。こうした道具は出物と呼ばれるが、お茶会用の「お道具」はそれなりのお値段で、お稽古用の安価な品々は新品よりも格安で販売される。少なくとも私の行きつけの茶道具屋ではそうだ。

出物の値付けは店主次第。店に棚の出物の在庫が溜まっていたせいか、つぼつぼ棚はセール品で1万円だった。師匠も「稽古道具は一番安いのを買いなさい」とよくおっしゃっていた。だがそんな言葉を今ごろ思い出すのは、買ってしまった自分に対する言い訳である。

裏千家十三代圓能斎が好んだと伝えられるつぼつぼ棚は、四本柱の二重棚で、左右と向こう側の三方にはつぼつぼ紋の透かしの入った腰板がはめられている。そして何と言ってもここが最大の特徴なのだが、塗りが青漆爪紅。棚板も柱も腰板も全てが緑の漆で塗られていて、天板(上の棚板)と地板(下の棚板)の側面と、くりぬかれたつぼつぼ紋の側面の部分だけが赤。裏千家好みの小棚は数々あれど、これほど愛らしい姿をした棚を他には知らない。

私は以前に一度だけこの棚を使ったことがある。同じ青年部の先輩であるTさんが卒業記念のお茶会でこの棚を出されて、私もお点前をした。棚の上には海外で購入されたというこれまた愛らしい姿の焼き物が、見立ての薄器として飾られていた。柄杓を向こう側の腰板の桟に伏せて手前側に柄を流すという独特のかざり方も印象的だったが、何より小柄で優しいTさんの人柄とベストマッチの取り合わせは私には衝撃的だった。この棚を見るなり欲しくなったのは、きっと昔の思い出、Tさんへの憧れ、いろいろな感情が混ざった結果なのだろう。

さて、家に着くと私は早速買ってきた棚を組み立ててみることにした。だが、そこである問題に気づいた。腰板はどっち向きに入れたらいいんだろう?

腰板にはつぼつぼ紋の透かしが入っている。構造上、腰板には裏表はなさそうだ。どちら向きに入れることもできる。向こう側の板は1枚しかないから二通り。だが、左右の腰板は入れ替えることも可能だし、それぞれ表裏を変えても組み立てられる。つまり、八通りの組み合わせが可能だ。これは困った。

本棚から棚手前の教則本を本棚から引っ張り出して見比べてみたのだが、なんと私の買った棚と教則本の写真では、つぼつぼ紋の配置が違っているではないか!教則本の写真では左右の腰板のつぼつぼ紋は「へ」の字型に3つ並んでいるが、私の買った棚の腰板を見ると、紋の数は同じ3つでも「レ」の字型の並びなのだ。

こうなれば奥の手発動。Google画像検索で「つぼつぼ棚」の画像検索をしてみると、あらビックリ。つぼつぼ棚のつぼつぼ紋は左右の腰板では3つ、向こう側の腰板では5つとここまではどれも同じなのだが、つぼつぼ紋の並びは棚ごとに見事に異なっているではないか。

私だってつぼつぼ紋が三千家で使われる紋であることくらいは知っている。千家がまだ3つに分かれる前、三代の宗旦が伏見稲荷の前で売っていた土器を見てこの紋を思いついたのだと伝えられていること(だから今回のタイトル写真は鳥居なのです)、三千家それぞれにつぼつぼ紋の重なり方が違うことくらいの知識はある。が、その知識はつぼつぼ棚を組み立てる上では役に立たない。

さて、どうしたものだろうか。



S.Goto
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