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細水指の謎

by S.Goto

茶道で十月といえば中置である。

中置とは風炉を点前畳の左右中央に据えることである。「日ごとに涼しさが増し、火が恋しくなる時期に火を客に近づけ、水を遠ざけるのである」と説明されている。私もそのように習った。つまり、水指は勝手付側に置くのだ。中央に風炉が置かれている分、勝手付の空間は狭いので、口径の細い水指を用いる。この中置用の水指は「細水指」という名で呼ばれている。

だが、現在稽古の為に借りている茶室の備品に細水指はない。私は細心の注意を払って「できるだけ壊れなさそうな」「値段の安い」細水指を求めることに決めた。

というのも、細水指というのは結構壊れやすい(壊しやすい)茶道具だからだ。以前の稽古場では、織部の水指の蓋だけがいつの間にか唐津に変わっていたことがあった。多分織部の蓋と唐津の本体を誰かが割ってしまったのだと思う。茶道教室の生徒は(過去の私も含め)茶道具の扱いがぞんざいなので仕方がない。これは身銭を切って道具を買うようにならないと治らない病である。

さて、話を戻そう。

中置の稽古用に細水指を買おうと思って調べているうちに、私は奇妙なことに気づいたのだ。

中置の点前は全て運びである。であるならば、細水指は運びの点前にふさわしい焼物で作られているはずだ。瀬戸や唐津や萩、信楽などの水指なら確かに運びの点前で使うのに不都合はない。が、いろいろと調べてみると、売っている中には色絵の細水指が結構あるのだ。それどころか染付や青磁の水指まである。これには驚いた。

染付や青磁の水指などは常据(中置でない風炉の常の置き方)の時は、必ず塗りの棚や長板、台子などの上に載せて使うものであり、運びの点前では用いないはずではなかったのか?色絵や赤絵の水指だって棚で使うことの方が圧倒的に多い。中置は全て運びの点前なのに、なぜ染付や色絵の細水指がこれほどたくさん販売されているのだろうか?

まず考えられるのは、これらの水指は中置に使うためのものではなく、何か棚に取り合わせて使うために作られている、ということだ。確かに、私も以前細水指を桑子卓に載せている写真をどこかで見たことがある。

が、よくよく考えてみると、私自身は細水指を棚に取り合わせて稽古をしたことはない。理由を考えてみたらすぐにわかった。使いにくいからだ。細水指は口径が狭いだけてなく、高さもあるので、更好棚のような棚に載せると柄杓で水を汲みにくいし、丸卓に載せると今度は水次で水を注ぐときに不都合が生じる。要するに「棚を選ぶ」のである。

が、だからと言ってここで綺麗な色絵の水指を選んだよいものだろうか?

まずは教本で確かめてみよう。今の裏千家の教本は全て点前写真がカラーで掲載されているので、使っている茶道具がどのようなものなのかも一目瞭然なのだ。果たして中置の点前ではどんな水指を使っているのか?

教本を開いてみると、意外な水指が写っていた。

「中置」の薄茶点前、濃茶点前で使われている細水指は、真っ赤な紅葉とその下で遊ぶ鳥の姿が描かれた京焼らしきものだったのだ。さらに読みすすめると、別のページではオランダ水指(塗蓋)と高取焼の水指(共蓋)も使われていた。

教本が示すところによれば、裏千家の中置点前では、少なくとも色絵の水指を使うのは「アリ」なのだ。オランダも「アリ」。さすがに磁器の細水指は教本には出てこないが、これを見る限り、陶器の水指
ならばまず使って良いと考えて良さそうだ。青磁や染付でなければよいということか。

そんなわけで、私は稽古用の安価なオランダ細水指を求めることにした。教本に写真が出ている以上、稽古で人に使っていただいても、何ら問題はない。

が、細水指をめぐる謎はさらに深まった。なぜ教本では色絵の細水指が使われているのか。この水指が選ばれている理由が必ずあるはずだ。私にはそれがわからない。でも、わからないことが分かっただけでもそれは収穫とすべきであろう。










S.Goto
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