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茶道文化検定の思い出

by S.Goto

 お茶をやっている方なら「茶道文化検定」という名を耳にしたことがあると思う。「茶道」や「文化」という言葉の持つ雅で美しい世界を「検定」という現代的な物差しで測ろうというのは、野暮である。が、文化というのが歴史であり積み重ねである以上、それをより詳しく知るには知識が欠かせない。そして、その知識を頭に叩き込む上で「検定試験」の存在は意外に侮れない。少なくとも私はそう思う。

 この検定は年1回、毎年秋に開催される。1級から4級までの4つのレベルで茶道文化に関する知識が問われる。4級は茶道文化に関する基礎的な知識、3級は一般的な知識、2級はやや高度な知識、1級は高度な知識。設問は四つの選択肢から1つを選ぶ択一のマークシート方式だが、1級のみ直接回答を書く記述式の問題も出題される。

 検定試験の主催者は「一般財団法人今日庵 茶道資料館」、つまりは裏千家だ。

 私の師匠がまだ若かった頃は裏千家茶道の許状をいただく際に口頭試問という形で、知識を問われたそうだ。師匠は天目茶碗の種類を聞かれてそれに答えたという話だったが、「答えることが可能であった」ということは、お茶の稽古の中でそれを教わる機会があったということでもある。昔の稽古にはそうした余裕があったのだろう。今の先生は点前を教えるのが精一杯。その背景にある知識を伝えるにはあまりにも時間が足りない。この検定試験はこうした茶道周辺の「知識の習得」が、茶人としての資質を高める上で不可欠である(それなのにお茶を嗜む人に欠如している)ことを案じて始められたのではないかと想像する。

 検定が初めて行われたのは平成20年。なぜ、そんなことを知っているかというと、私も受験したからだ。確か1回目は3、4級のみの試験だったと記憶している。私は3級を受けて合格した。翌年は2級を受けた。ちょうど父親が入院していたので、病院に行っては寝ている父の横で分厚いテキストを繰り返し読んだ。試験日は父が亡くなった10日後だった。結果は合格、嬉しかった。

 せっかく2級まで取れたのだから、と翌年の第3回には1級を受けた。受かるだろうとタカをくくって試験の前の日の晩飲みに行ったら落ちた。2級までは合格ラインは70点だが、1級の合格ラインは80点。あと1問か2問正解していれば合格だったので、私は「飲まずに勉強すればよかった」とたいそう悔やんだ。でも、その翌年は受験しなかった。試験の日がお茶会と重なったためだった。

 検定の行われる秋はちょうどお茶会シーズンである。日曜日ともなれば、毎週のようにどこかで誰かが席を持つ。そんなこんなで次に受験したのは3年後の第6回だった。だが、試験を受けた感触は「多分、不合格」。私は自分の記憶力が昔に比べると衰えていること。かなり真剣に勉強しなければ合格は無理だと悟った。結果はもちろん予想通りだった。

 それからは毎年秋になると、試験に落ちたことが思い出され、悔しい思いが蘇るのだが、何しろお茶会シーズンなのでなかなか受験の機会がなかい。だが第10回目となる今年、私は久しぶりに出願することにした。師匠は引退して「どうしても出席する必要のある茶会」も減った。勉強するなら今しかない。

 久しぶりにテキストを引っ張り出し、特に苦手な「茶業」「茶と禅」「茶室と露地」「茶の歴史」を中心にもう一度テキストを読み込んでノートを取った。問題集も2冊買い込んで、過去問もみっちりやった。もしこれからこの検定を受けようという人がいたら、問題集はできるだけたくさん買うことをお勧めする。「問題」を作る側もおそらく大変なのだろう。過去に出た問題の中には、形を変えて何度も出てくるものがある。やればやるほど取れる点数は増えるのだ。

 最後は解けなかった問題を全部カードに抜き出して、四択ではなくダイレクトに答えをノートに書く練習もした。記述問題は配点が倍なので、漢字できっちり答えが書けないと合格ラインに到達できない。私は書いて書いて書きまくった。多分、こんなに勉強するのは大学受験以来だろう。

 頭の中に最大限に知識を詰め込んだ状態で私は試験日を迎えた。今回こそ合格する!

 1級の問題はテキストに書かれていないことも出題される。問題文を読みながら「ナンジャコリャー」と心の内で叫びたくなるような問題も5、6問はあった。が、四択だからヤマをかければ当たることもあると割り切って、私は焦らずひたすらマークシートを塗り続けた。勝負は記述問題だ。

次の文を読んで(  )に当てはまる語句を漢字2文字で書きなさい。
 「新年の宮中儀礼である「歯固めの儀式」から生まれた菓子で、裏千家十一代玄々斎宗室が宮中より使うことが許され、川端道喜につくらせた菓子は御(  )である。」

 答えはもちろん「ヒシハナビラ」、花びら餅のフォーマルな名称だ。でも、漢字が出てこない。ヒシは菱だけどハナビラってどう書くんだっけ・・・?草冠の下に巴だったような、いや、巴の横にも何かあったような・・・。問題用紙に様々な字を書いては試したが、どうもピンとこない。

 結果の発表は1月、私が今年1級に合格できなければ、それは「菱葩」という字が書けなかったせいだ。1級合格を狙うみなさんには、ぜひこの文字の書き取り練習をされることをお勧めいたします。


S.Goto
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