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細水指ふたたび

by S.Goto

 昨年の10月に「細水指の謎」というエントリを書いてからはや一年が過ぎ、再び中置の季節が巡ってきた。つまり、オランダの葉タバコ柄の水指を求めてから一年が経過したということなのだが、実は今年また細水指を買ってしまった。

 稽古用の細水指なんて普通は一つあれば十分だ。でも、道具というのはすべからく「使ってみないと分からない」ことがある。私が最初に買った細水指は実は織部の稽古用だ。これは夫の実家で義妹に稽古をつけるために買ったのだが、値段だけ見て選んだので、江戸間の部屋で使うには少々大きかった。そして、昨年は今の稽古場で使うために、散々悩んだ末にオランダ柄の水指を買った。一緒にお稽古しているI先生には「良いの買ったじゃない」と褒められたのだが、私は「イマイチ」だと感じていた。

 どこが気に入らないのか自分でもうまく言語化できなかったのだが、先日友人の茶会の稽古を見せてもらって疑問は氷解した。彼女がお弟子さんに使わせていた中置の水指は、おそらく信楽焼か何かだろう。釉薬のかかっていない土のザラザラした雰囲気。本体には耳が付いていて、そこは縄目になっている。田舎の素朴な雰囲気が感じられていかにも名残の季節にふさわしい。

 そうだ、オランダ柄の細水指に決定的に欠けているのは「名残の侘びた風情」だ!

 ところがある日、そんな私の心をグラグラと揺さぶる細水指がついに現れた。冒頭の写真の水指である。見ての通り、細水指の中でもかなり細い部類に入るもので、朝鮮唐津だろうか。「出物」だが、紙箱入りだったのでもともとお稽古用に作られた道具であることは間違いない。釉薬の掛け方は違うが、以前の稽古場で使っていたものととてもよく似ている。

 似ているのは水指本体だけではない。蓋の部分についている包装紙が某茶道具店のものであり、ダンボール箱の外側に水指の写真が貼ってある(と、ここまで言うと分かる人にはどこの茶道具店から出た品かわかってしまうと思うけれど)のまでそっくりだ。

 これだ!と即座に決めたのは良いが、買ったあとで急に使い勝手が心配になった。見ての通りとても細い。細水指から水を汲むのは普通の水指に比べるとやや難易度の高い所作だ。これだけ口が狭くても初心者の皆さんはすんなり柄杓の合が入れられるだろうか?Nさんは中置のお稽古をするのは今回が初めてだし、Kさんは柄杓を持ち始めてまだ二ヶ月目である。

 そして稽古当日。最初にこの水指を使ったのは我が夫氏だったのだが、彼は開口一番こう言った。

 「こっちの方が前のより使いやすいよ!」

 意外だったので理由を聞いてみると、どうやら水指の構造に原因があるらしい。水指の口の内側には蓋を乗せたとき引っかかるように円周に出っ張りが付いている。オランダ柄の方はこの出っ張りが大きいのだ。それに比べると新しい方の細水指は出っ張りが小さい。そのため合が入れやすいというではないか。

 私の心配をよそに、NさんもKさんも問題なくこの水指から水を汲み出すことができたので、おそらく夫の言うことは当たっているのだと思う。細水指の使いやすさ=水の汲み上げやすさは水指そのものの径だけで決まるのではなく、口の構造と大きく関係があるというのは新しい発見だった。

 茶道具の値段と言うのは作った作家のランクで決まる。だが、それを買う者にも「こうあって欲しい」と言う好みがあり、道具としての「使い勝手」と言うものがある。好みに合う道具で、なおかつ使い勝手が良いというのは、本当に幸せなことだ。私は今、一人でニマニマしている。

 だが、この幸せな気持ちを得るまでに「好みではない」「使い勝手がイマイチ」な「稽古用」の「一年に一ヶ月しか使わない」細水指を2個も買ってしまったこととはどう折り合いをつけたら良いのだろう。全くもって悩ましい。



S.Goto
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